第53章 躊躇*
「この辺でいい?」
前に送り届けた場所に止まる。
「はい。ありがとうございます。」
「そうだ。もう足は平気?」
『そうだ』だって。
そんなに離れたくない?
「お陰さまで。もう大丈夫です!」
「その節はお世話になりました。」
「ありがとうございました。」
頭を下げるヒナ。
その頭を軽く撫でる。
「大丈夫なら安心したよ。」
少し驚いた表情を見せるものの笑ってくれる。
「ヒナさ…」
「はい?」
「いや何でも無い。」
「じゃあ、おやすみ。」
触れた手を離し俺も笑う。
「おやすみなさい。」
「気を付けて帰って下さいね。」
滑り降りるように助手席のシートから車外へ。
手を振るヒナに右手を軽く上げて応える。
名残惜しいものの、そんな思いは振り払い前を向きアクセルを踏み込んだ。