第53章 躊躇*
掌に残る感覚。
柔らかい髪。
「ヒナさ…」
「はい?」
何か…会わない間に変わったよな?
言葉の言い回しとか仕草とか。
丸くなった気がするんだ。
やっぱりノブの影響?
言えもしない言葉を飲み込む。
「いや何でも無い。」
「じゃあ、おやすみ。」
名残惜しいけど離した指。
引き止める勇気もない情けない自分。
もう横のシートにはヒナはいない。
帰るべき場所に帰っただけ。
鼻孔をくすぐるヒナの残した香り。
シャンプー?
あの頃とは少し違う香り。
離れていた間に何が起きた?
この距離は埋められない?