第53章 躊躇*
肌触りの良いシーツにふんわり軽い布団。
瞼を開けば懐かしい部屋。
何処かなんて、すぐに分かる。
「達央…さん?」
名前を読んでも返事はない。
肌に触れる布団の感触。
視線を下へ向ければ…
「服!?」
下着は着けているもののそれ以外は全てベッドの下。
周りを確認しながら服を引き寄せ身に付ける。
「何で?」
「何でここにいるの?」
頭痛が酷い頭を抱えて曖昧な記憶を辿る。
「………えっと…」
「…確か櫻井さんにご飯誘われて…」
「久々にお酒飲んで…」
「でも何でここに…?」
「さっきから何ブツブツ言ってんだよ。」
顔を上げると呆れながら私を見る達央さん。
「達央さん!?えっとっ…その…」
「そんな為りしてるけど、何も無いから。」
「え…」
視線を合わせない達央さん。
「いや。何も無かった訳では無いけど。」
「まぁ、気にするな。」
「は?えっと。でも…」
自然と自分の体を見つめてしまう。
一度大きいため息が聞こえたと思うと少し苛だった声が聞こえた。
「あ”ー正直に言うよ。多少手は出したけど、何とか理性でとどまった。」
視線を逸らしてバツが悪そう。
達央さんがそう言うなら、きっと大丈夫なんだろう。
嘘つくような人では無いし。
でも…
「………それって、とどまったって言うんですか?」
どこまでしたのかは、分からないけど。
それでも。
きっと達央さんとは……
「もうしないよ。」
そう言った声がすごく小さくて。
私の知らない人みたい。
元々そう知った仲でも無かったけれど。
「櫻井さんは先に帰るし。」
「それなのにお前を送り届けろって言われるし。肝心のお前は寝てるし。」
「それに…酔ったお前を連れて帰れないだろ。」
「そもそも家を知らないしな。」
くるりと背中を向けて寝室を出る。
「送って行くから準備しろ。」
どんどん遠ざかる声に寂しさを覚えた。
ここは私の居るべき場所じゃないから。
早くここから出ないと。
「すぐ用意します。」
カーディガンを引き寄せ袖を通した。