第5章 翻然
目の前に置かれたクリームとストロベリー、ブルーベリーにラズベリーが沢山乗ったパンケーキをナイフで切って頬張る。
メイプルシロップが染み込んだふわふわだけど、少しモッチリしたアメリカンタイプ。
口の中に、甘酸っぱさと噛み締めると染み出す甘いシロップとそれを包み込むクリーム。
鼻から抜けるメイプルの香りに両頬に掌を付けて、瞼を閉じる。
「んー。美味しい。」
幸せに浸っていると、クスリと笑われ瞼を開く。
「えっと。」
「美味しいですね。」
岡本さんに同意を求めていると予想外の発言に驚く。
「こっちも食べてみる?」
視線をお皿に移せば、目の前にはキャラメル、胡桃、アーモンドが沢山乗ったパンケーキ。
さっき私が悩んでいたもの。
勿論即答で返事をする。
「はい!ありがとうございます。」
遠慮がちに端の方を少し切って、フォークで自分のお皿に乗せる。
すると、岡本さんは自分のフォークに大量のクリームを乗せ私が取り分けたパンケーキに乗せてくれた。
そして、胡桃、アーモンドをトッピングし、キャラメルソースをかける。
「はい。ミニパンケーキの出来上がり。」
「わぁ。ありがとうございます。」
フォークで掬い、頬張ると今度は胡桃とアーモンド。
キャラメルの香りが口いっぱいに広がる。
「こっちも美味しい!」
美味しいものを食べると自然と頬が緩む。
ニコニコ笑って、岡本さんを見つめれば、同じように笑ってくれる。
この時間がとても幸せ。
手元を動かしながら、岡本さんに話しかける。
「こんな素敵なお店、よく知ってましたね?」
そう問えば頬杖を付きながら、とびきりの笑顔で答えてくれる。
「あぁ。先輩が教えてくれたんだ。」
「デートするなら、ここが良いって。」
無邪気な笑顔に一瞬時が止まる。
「デート…」
恥ずかしさにボソッと呟き俯く。
柄にもなく、顔は真っ赤になってると思う。
恥ずかしくて、顔が上げられないもの。
私、今どんな顔をしてるんだろう…。
数ヶ月前に言われた事を思い出す。
『感情を素直に表に出せるキミが羨ましくって。』
私は、躊躇いも無く言葉に出来る岡本さんが羨ましいです。