第53章 躊躇*
タクシーに乗ると肩に寄りかかり眠るヒナ。
全神経が触れた肩に集中する。
規則的に聞こえる呼吸音。
あの頃を思い出してしまう。
求めるように延ばされる腕。
苦しげによがる姿。
快楽を味わう表情。
感覚が無くなる程交わす口づけ。
汗ばむ肌に滴る汗。
熱い吐息に震えるカラダ。
瞼を開けば気持ち良さそうに眠るキミの姿。
今思えば至福の時だったんだよな。
もう一度キミの肌に触れたい。
櫻井さんには「何言ってるんですか。」なんてとぼけてみたけど。
全部見透かされてた。
俺は今でもヒナを求めてる。
ヒナ?
あの頃に戻らない?
許してくれなくて構わない。
今日だけ。
一度だけでいいんだ。
今夜だけ。
俺のモノになってよ。