第52章 再来
「櫻井さん。お疲れさまです。」
「はい。お疲れ。」
手にしたタンブラーを私のカップに軽くぶつける。
「ノブと待ち合わせ?」
「違いますよ。」
数人にしか言ってないはずだけど…情報って漏れるんだな。
「収録終わったので、帰る前にお茶してたんです。」
「そっか。ね?ここいい?」
悪戯でもしそうな笑顔。
「どうぞ。」
「ありがと。」
イスに掛けて足を組む。
何しても様になるんだなと感心してしまう。
「俺の格好良さに惚れた?」
「惚れません。」
カップに口を付けて飲み込む。
「即答かよ。」
はははっと笑う声は小さくてもよく通る。
「櫻井さんはお声が通るんですからバレますよ?」
「んー?別に隠れる必要は無いだろ?」
「悪いことしてないし。」
「えー。まぁそうですけど。」
「ほら。最近色々あるじゃないですか?」
「ん?」
「何とか砲とか。」
「あー…まぁ…別にやましい事してるわけじゃ無いし。」
「でも、ヒナとなら俺は構わないけど?」
「何言ってるんですか。」
「それより、俺よりお前らの方が気を付けた方がいいだろうが。」
「一緒に暮らしてるんだろ?」
「まぁ…でも二人で出掛けるなんて滅多にありませんもん。」
「そう言う問題じゃねーよ。」
「岡本さんはお忙しいので、家でもなかなか会えません。」
「だから一緒に暮らしてるんだろ?」
「………そうですよね。……うん。そうでした。」
「他に目移りなんかするなよ?」
「何言ってるんですか。」
「足元はしっかり見て。階段落ちるなよ。」
「櫻井さんは何でも知ってるんですね。」
「あはは。ヒナの事なら。」
「怖いですよ。」
「そうだ。これからメシ食いに行くけど時間平気なら行かない?」
「一人で食うメシは美味くないでしょ?」
「うーん。」
「あ。俺と二人でじゃないよ。もう一人途中で拾うから。」
「え?誰ですか?」
「ヒナもよく知ってる人。」
「な?たまには俺に女のコと食事する機会をくれよー。」
「櫻井さんならいつも食べられますよね?」
「違う!ヒナがいいんだよ。」
囁かれる声に後ろに引くと背中が背もたれにぶつかる。
「一緒に行こ。ここで会ったのも何かのご縁。」
微笑まれると断れない…
「分かりました。」