第51章 一笑
「じゃあ、そろそろ寝ようか?」
動きやすいように布団をめくり、横になれるようにしてくれる。
足はまだ少し痛いけど、眠れない程じゃない。
枕を調整し場所が決まると岡本さんが横に寝転ぶ。
「ね?くっついてもいい?」
頷けば嬉しそうに笑う。
「痛かったら言ってね。」
布団を引っ張り肩まで掛けてくれる。
照明のリモコンで明かりを落とす。
聞こえるのは衣擦れの音。
まだ位置が決まらないのかな?
こうしていれば余計なことなんて考えなくて済む。
「ね?今日は誰が病院まで連れて行ってくれたの?」
「え……?」
「マネージャーなら、ここまで着いてくると思ったから。」
「勿論、スタッフも同様。」
スッと細められた瞳に視線を逸らす。
「………。」
「別に変な意味があるわけじゃ無いよ。」
「言いたくないなら無理には聞かないけど。」
「えっと……達央さんです。」
「え?タツさん?え?共演してた?」
「してないですけど…たまたま通りかかって。助けてくれました。」
「そっか。」
「多分30分くらい一人でその場にいたんですけど、いつの間にか寝てて。」
「起きたら達央さんがいました。」
「あのまま朝を迎えるのを覚悟してたんですけど。」
「本当に良かったです。病院まで連れて行ってくれて。」
「なんと御礼を言ったらいいのか。」
「ふーん。そうなんだ。」
「………今日は随分饒舌だな。」
「え?」
「うぅん。何でも無いよ。」
「そういう時はボクを呼んでよ。」
「はい…すみません。鞄の中身までばらまいてしまってスマホが取れる位置になかったんです。」
「そっかそっか。でもね。次はボクを頼って。一応彼氏なんだからさ。」
「はい。」
「さてと。寝よう。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
背中を撫でる岡本さん。
さっき聞こえたのは勘違いじゃない。
『今日は随分饒舌だな。』
弁解したいけど、直接聞かれた訳じゃないし。
別に達央さんと何かあったわけじゃ無いし。
そう。何もないもの。
一緒に病院に言ってくれただけ。
それだけ。
…………。
本当に今日は饒舌。
誰に言い訳してるの?