第51章 一笑
玄関を開けると電気の付いた廊下。
まだ起きてるのかな?
動きの鈍い足を引きずり、靴を脱ぎリビングへ続く廊下を進む。
ゆっくりゆっくり歩けば、少し先のドアからタオルで頭を拭きながら出てくる岡本さんを捉えた。
「あ。ただ今戻りました。」
そう声を掛ければ驚いたようにこちらに振り返る。
「お帰り…ってケガしたの!?」
大きな声を出しながら小走りで近寄る岡本さん。
「大丈夫です!病院に行ったら包帯グルグルされちゃって大袈裟になってるだけですから!」
「いやいや。大袈裟とかそう言う問題じゃないよ!」
いつもと違う少し怒った声色と表情に萎縮してしまう。
それを悟ったのか岡本さんは私に近づき軽々と抱き上げる。
「え!え?歩けますよ!」
「だーめ。」
「怪我人は大人しくする。」
そう言って、私を抱えたまま廊下を進む。
お風呂上がりだから仕方ないけど、ハーフパンツに上半身裸。
腕や足に触れる少し汗ばんだ肌。
意識せずにはいられない。
「岡本さん!大丈夫ですから、下ろして下さい。」
何度お願いしても、今度は返事すらしてくれない。
リビングの扉の手前にある寝室の扉。
「行儀悪いけど今日だけは目を瞑って。」
少し開いた隙間に足をねじ込み開く。
真っ暗な部屋に置かれたベッドにそっと降ろされた。