第51章 一笑
「こんな時間まですみません。」
達央さんの車の助手席に座り、病院で手当てされた足を見つめる。
「包帯でグルグル巻き…大事になっちゃいましたね。」
「ましたね。って当事者だろうが……ったく。」
呆れる声に居たたまれなくなる。
「すみません…」
「捻挫と打撲で済んで良かったよ。」
運転する横顔を見つめれば、不意に視線がぶつかった。
「あ。えっと…」
「そんな状態だとノブに隠し通すのは無理だな?」
はははと笑う声と反比例して私の声は沈む。
「はい…諦めて正直に言います。」
「最初から頼れば良かっただろうが。」
返事もすることなく窓の外を見つめる。
どんどん通り過ぎる景色。
まだ見慣れない街は、少し居心地が悪い。
あとどれくらい達央さんと一緒にいられるんだろう。
もう少しだけ。
この空間を…この時間を…心に焼き付けさせて。