第48章 共鳴
どれくらいの時間が経ったんだろう。
「日菜乃ちゃん…。」
名前を呼ばれて、瞼を開ける。
「はい。どうかしました?」
「うん。ちょっと聞いて欲しいんだ。」
「はい。」
そう返事をすると岡本さんは、いつもより小さな声で話し始めた。
「今日ね。あやめさんに会ったよ。」
入野さんと結婚して引退したあの人。
この業界を去って何年経ったんだろう。
見掛けなくなって…名前を聞かなくなって何年も経ったはずなのに………。
名前を聞くだけで体が強ばってしまうのは、数年前のあの事を思い出してしまうから…。
あの頃の私は本当に言葉にならないくらい卑怯で醜くて…
時間が戻るのならば…なんて出来もしないことを考えてしまう。
自分を落ち着かせるようにテーブルに置いたハーブティー入りのカップを引き寄せ、ゆっくりと口を付ける。
飲み込めば温かさがゆっくりと体の中を流れるのを感じた。
「自由くんの迎えに新幹線の改札前で待ってたんだ。」
「そうなんですね。」
そう言いながら、岡本さんの手をゆっくりと撫でる。
「お腹が大きかったよ。もうすぐ生まれるんだってさ。」
「そうなんですね…」
今度は、その手に指を絡める。
「ね?日菜乃ちゃん。」
耳元に掛かる温かい吐息。
絡めた指を胸元に引き寄せられながら、抱き締められた腕に力が隠る。
後ろから抱きしめられる事に身構えなくなったのはいつからだったかな。
「はい…」
ドキドキはするけど、それ以上に心地よさが上回る。
「あのね。これは少し前から言おうと思ってた事なんだ。」
「今日、このタイミングで言うのもどうかと思うけど。」
「でも今聞いて欲しいんだ。」
「あのね………」