第5章 翻然
「甘い匂いがするな。」
開いたドアには、キャップを目深に被り鼻をクンクンと天井に向ける男性。
「タツさん。おはようございます。」
隣に居た岡本さんが近づく。
「おー。はよ。」
「何なんだ?この甘ったるい匂いは。」
「すみません。ボクがスイーツ差し入れたんです。」
「でも…もう完売です…すみません。」
「あー。良いよ。熱ーし。甘いものは遠慮したい。」
手をパタパタと仰いで、風を送る。
「達央さん…おはようございます…」
「ドリンク買ってきますか?」
「あ?……水澤か…俺にはそう言うの良いから。」
掌を向けられ、視線も合わせてくれない。
「ノブー。何か飲むもん無ぇ?」
達央さんは……
多分、気付いてる。
勘違いじゃないと思うの。
合わせて貰えない視線。
必要最低限の会話。
『危険』
頭には常にサイレンが鳴る。
鈴木達央
この人には、近付かないようにしよう。
私が築き上げた今の居場所。
薄っぺらいかもしれないけど、それでもこの場所が私にとっては大切な場所なの。