第44章 拈華
ホテルに着くとその足で、ロビーを抜けた先を目指す。
歩みを進めると背後から声が掛かった。
「日菜乃?出掛けるの?」
「あ。はい。ちょっとビーチをお散歩してきます。」
「そう…ビーチね?他に行かないわよね?」
「え?」
予想外の言葉に若干戸惑いながら返答する。
「買い物とか。」
「行きませんよ。サンセットでも見ながら少しお散歩するだけです。」
「心配しないで。夕食の時間には戻りますよ。」
笑顔を作ってみたものの、多分綺麗な笑顔は作れてないと思う。
「えっと…ちょっと一人になりたいだけだから…。」
視線を逸らして、横のテラスの先の空を見つめた。
さすがに丸一日、スタッフと過ごすのは気持ち的にも疲れる。
別に嫌な訳じゃないけど。
ただ…頑張るのは慣れてないせいか、少ししんどい。
私の表情から読み取ってくれたのか、マネージャーは何も言わずに背を向けてくれる。
言わなくても感じ取ってくれるマネージャーには感謝しないとね。
くるりと向きを変え、風が抜ける吹き抜けの廊下を進む。
テラスを抜けて、プールサイドに置かれたサマーベッドの横を縫うようにすり抜ける。
プールでは、子供が楽しそうに泳ぐ。
それを見つめる両親やおじいちゃん、おばあちゃん。
その隣には寄り添う恋人、夫婦。
沢山の笑い声が響く。
そんな中、一人ビーチに降り立つ階段を駆け下りた。