第44章 拈華
「そろそろ戻りまーす。」
振り返れば口元に手を当てて、こちらに向かって大声で話しかけるスタッフ。
その声に浜辺へ戻れば日に焼けた肌が目に留まる。
「マユちゃん。日焼けしてるよ?」
「そうなんですよー。もうヒリヒリしちゃって。」
「メイクさんなのに…ケアしないの?」
「水澤さんに手が掛かるから自分に時間が割けないんですよ!」
目を細めて私を睨む。
今回の撮影のメイク担当のマユちゃんは、年齢も近くて話しやすい相手。
最近は、全員とは言えなくてもスタッフともこんな風に会話が出来るようになった。
なるべく壁を作らないように。
自分からも歩み寄るように。
『もう偽る必要無いんじゃないか?』
『大丈夫だよ。』
『お前はそのままでも受け入れて貰えるよ。』
『自信持って。な?』
自信なんて、まだ持てないけど。
でも少しでも、そのままの自分でいられたらって思うの。
恋愛とは違う。
何て言えばいいのかな?
尊敬する先輩?
前はどちらかと言えば苦手だった人なのに。
今は…
話す機会は大分減ったけれど、それでも。
心の拠(よりどころ)にしてる。
御守りみたいな存在なのかもしれない。
もう一度振り返り、水平線見つめる。
何もかもが本当に綺麗。
背伸びをしながら手を空へ差出し、今度は大きく息を吸った。