第43章 所期
「チケットはマネージャーから空港で受け取るから…」
「パスポートとクレジットカードと現金」
「これさえあれば何とかなる!」
バックを見つめてウンウンと頷く。
「楽しそうだね?」
リビングのソファーに座りながら、こちらを見つめる岡本さん。
「いいなー。ハワイ。」
「お土産買ってきますよ。何がいいですか?」
「うーん。LINEするよ。」
ピーンポーン
話し終えると同時にインターホンが鳴る。
「お迎え来ちゃったみたいです。」
手にしたスマホには数分前の到着を知らせる通知。
時間なんて、あっと言う間。
「そっかそっか。じゃあ、ボクも帰るよ。」
玄関の扉を開ければ、驚く顔。
事務所の社員で、マネージャーのサポートとして最近私に付いた若い女性。
今日は、自宅から空港まで送り届けるのが彼女の仕事の1つ。
空港で同行のマネージャーとスタッフと合流の予定。
「おっ岡本さんっ!」
まるで見てはいけないものでも見たように目を逸らす。
「あー。おはようございます。」
「ハワイ良いですねー。ボクも行きたいな。」
「あ。私は空港までなので現地には行かないんです…」
残念そうにため息を付く。
「あー。そうなんですね。それは残念。」
そう言いながら、私のスーツケースを引きながら横をすり抜けエレベーターホールへ歩みを進める。
「やっぱりRIMOWAのスーツケースは扱いやすいね。ボクも次はこれにしようかな?」
ブツブツとひとり言を呟きながらどんどん進む。
「岡本さん。私が運びます!」
我に返ったマネージャーが小走りに岡本さんに近づく。
「えー。大丈夫ですよ。女性にこんなに重い物は持たせられないし。」
「でっ…でも」
「せっかくだから、甘えちゃいましょ?」
すかさず間に入って会話を繋ぐ。
チラッと私を見つめるから、私は微笑む。
ホッとしたように表情が緩んだ。
「すみません…ありがとうございます。」
スタッフにも変わらず優しい岡本さん。
私に対する優しさだって他の人と変わらない。
そう。欲張らないって決めたの。