第42章 逕庭
「ヒナ~見っけ♪」
背後から聞こえる上機嫌な声。
「本当…台無し…」
「でも。助かったかな……。」
頭を掻いて、苦笑いする達央さん。
「櫻井さん。お疲れさまです。」
「えー。何でタツが一緒にいるの?」
少し不機嫌そうに腕を組んで私達を交互に見つめる。
「ん?ヒナ?目が真っ赤だよ。」
「タツに泣かされた?」
顔を覗き込まれると反射的に顔を伏せてしまう。
「違うんです。私が勝手に…っ」
極力まばたきをしないように床を見つめる。
また涙が溢れてしまいそうだから。
「ヒナ?無理はするなよ。」
「やっと偽善ヒナ卒業したんだから。」
「え?」
「最近、良い意味で変わって来てるよな?」
「この調子で頑張れよー。」
両肩を掴まれて揺すられる。
「期待されてるみたいだしな。」
そう言って、私と達央さんの背中を叩く。
「ひと肌が恋しくなったら呼んで。」
「タツじゃなくて、俺を呼んで。」
「ここが重要だからな?」
「俺を呼ぶんだよ?」
「ヒナの為ならすぐに駆けつけるから。」
ニッコリ笑って立ち去る。
嵐みたいで笑ってしまう。
『期待されてる』
お世辞だって嬉しい言葉。
不安になってる場合じゃない。
「ヒナ。下ばっかり向いてないで、前を向きなよ。」
顔を上げれば、優しい眼差しとぶつかる。
「知ってる?上を向けば涙は溢れないんだよ。」