第36章 離別
「全部片付けたのか?」
「えぇ…仕事関係は、滞りなく。」
「随分大きな溜め息だな?」
「あはは…まぁ。心残りが一つありまして…」
「育て途中の新人?」
答えの代わりに目の前のビールを飲み干す。
「一人で出来るくらいには育てたので問題無いんですけどね。」
「連れてくれば良いのに。」
「それなら、うちも安泰だろ?」
「いやいや。わがまま言って辞めるんですよ。」
「これ以上迷惑は掛けられない。」
「それに、アイツにはまだ大沢事務所と言う…大きな後ろ盾が必要なんです。」
「俺の独断で苦労させる訳には行かないんですよ。」
スタッフがテーブルに置いた替えのビールジョッキに口を付ける。
「もしかして、仕事以外でもパートナーだったり?」
「ははは。まさか…」
唇に付いた泡を手の甲で拭う。
「あぁ。片想いか。」
「………。」
「片想いとか。お前もまだまだ若いな?」
「何言ってるんですか。」
「お前には苦労させるけど、早く軌道に乗せて呼び寄せられるくらいの事務所にしないとな。」
テーブルに置いた飲みかけの俺のジョッキに自分のジョッキを軽くぶつける。
カチンと良い音が響いた。
「さて。これからも宜しくな。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」