第35章 艱難
バスルームには2種類のシャンプー、コンディショナー、ボディーソープ。
洗面台には違う種類の歯ブラシ。
いつの間にか増えた物があちこちに。
恋人って訳じゃない。
森本さんから、甘い言葉なんて言われたこと無い。
私は、ただの担当声優の一人。
お互いの需要が一致してるから、こうして一緒にいるだけ。
どちらかに想う人が出来たら、この関係は終わるの。
どちらか…?
私は?
どうしたいんだろう。
目の前の氷が入ったグラスを持ってクルクル回す。
座ったカウンターの前には色とりどりのリキュールの瓶。
光を反射して輝く。
「日菜乃?どうしたの?考え事?」
「ユキ…」
「新しいの作る?」
「うぅん。もうそろそろ帰るから。」
「そう?話聞いて欲しいなら、聞くけど?」
「ありがとう…うーん。じゃあ、一杯貰おうかな。」
「お任せで。」