第34章 疆域*
感覚が無くなるほど交わす口づけ。
何で…こうなっちゃったんだろう。
ずっと憧れてた世界で活躍する人たち。
声を掛けて貰えれば、嬉しくもなるでしょう?
勿論誘われれば、嬉しい。
『満足させてやるよ』
今まで見たことが無かった顔に、胸の奥がざわつく。
現場でスタッフやキャストに当たり前のように声を掛けられる森本さんを見て、どんな人なんだろうと興味はあった。
元々この業界にいたって言う話も聞いた。
「森本さんって、演じる側だったんですか?」
「あぁ…大分前にな…俺の昔話なんて、聞く価値は無いよ。」
「お前は、他に覚えることがあるだろう?」
何度聞いても教えてくれない。
森本さんの他の顔も見てみたい。
初めて会った時の会話。
緊張がほぐれた笑顔。
あの時から私はアナタを知りたいと思ってた。
担当マネージャーの名前を聞いて、胸が高鳴った。
また会えるって、そう思ったの。
一緒に仕事をして、キツいことも何度も言われたけど。
それでも、その言葉の裏にはいつも優しさが感じられた。
蹴り飛ばしたくなることも多々あったけど…。
それでも、信頼してた。
森本さんが受けろと言ったオーディションも全力で挑んだ。
勿論、自分の為だけど驚かせたいって気持ちもあったけど。
心の片隅には褒めて欲しいって思ってた。
やっと決まったオーディション。
『頑張ったな。』
触れられた手の感覚は、今でもしっかり覚えてるの。
吐かれる罵声に涙が溢れる。
多分、勘違いされてる。
勘違いされる行動を取ってるのは私だから仕方ないけれど…。
食事には行ってるけど、カラダを重ねたりはしてない。
甘い言葉を囁かれても、そもそも私なんか相手にしませんよ。
「満足させてやるよ。」
勘違いされてても構わない。
アナタが私に触れる理由が必要ならば。
ねぇ?
どんな風に触れるのか教えてください。