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逢ふことの(裏)~声優さんと一緒~

第32章 追憶


パタパタと小走りでこちらに向かってくる女のコ。
ストレートの黒髪が揺れる。

俺の顔を見て、驚いたように表情を変える。

「えっと…」

「時間みたいだよ。」

「え!?」

「こっち。連れてくるように頼まれたから案内する。」

パタパタと後ろから聞こえる足音。

「緊張?」

「え!あっ…はい…」

「初めて?」

「いえ…実は…数え切れないほど…」

「は?」

「何社も落ちてて…」

「ふぅん。俺、ここの社員なんだけど。」

「そんなこと言っちゃって良いの?」

呆れ気味に呟く。

「あっ。そうですよね…他でダメなんですから、ここもダメですよね…」

何かイライラするな。

「はぁ?そんな気持ちでウチ受けたの?」

「え?」

「ウチは他の大手と肩を並べるくらい誇れる事務所だよ。」

「他と一緒にしないでくれる?」

「すみません…」

一度下を向いて、息を吸い込み俺を見つめる真っ直ぐな瞳。

「でも。私はこの世界で生きていきたいんです!」

「大沢事務所で働きたい。この場所で。沢山の事を経験したいんです!」

今にも零れそうな涙。

「面接前から泣きそうになるなよ。」

「その気持ちを伝えれば大丈夫でしょ。」

「それに、ここまで来たなら実力もある程度認められてる訳だし。」

「まぁ。頑張れよ。」

目的の扉の前で足を止める。

「さて。俺は、ここまで。」

「ありがとうございます!」

「そうだ。」

耳元に顔を寄せて囁く。

「感謝してるよ。」

「他で落ちなければ、キミに会えなかったから。」

「他事務所の担当者に感謝しないとな。」

「キミと働けることを楽しみにしてるよ。」

「もしかしたら、担当になるかもしれないしね。」

「精一杯頑張って。」

不安そうな顔に優しく微笑みかけてみる。

「ありがとうございます。」

初めて見る笑顔。

少しは緊張ほぐれたか?

「さて。」

ポンポンっと肩を叩いて、ドアをノックした。


「菊田さん。連れてきましたよ。」

「えっと…」

視線を向ければ、読み取ってくれたのかすぐに答えを発する。

「水澤っ水澤日菜乃です!」

「水澤さん…だそうです。」

「はいはーい。」

能天気そうな声と共に、扉が開いた。
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