第32章 追憶
事務所の廊下を歩くと、クリア仕様になった壁の会議室。
「中に人がいるのに珍しいな。」
ボタン一つでスモークとクリアが切り替えられる会議室。
使用中の時は、たいていスモークなんだけど。
入り口の表示を見て納得する。
『控室』
「あぁ…今日だったんだ。」
目を閉じれば思い出す。
俺も10年前に受けたな。
建物は違うけど、さすがにここまで丸見えなのは可哀想。
すると、こちらに気付いたのか席を立って歩み寄る。
カチャリと扉が開き、申し訳なさげに声を掛ける。
「あの…すみません…化粧室は、どちらでしょうか…」
「緊張しちゃって…」
眉を寄せて、肩をすくめる。
「あ…あぁ…真っ直ぐ行って突き当たりを左。」
「ありがとうございます。」
「早く行ったら?時間。」
「そっそうですよね!ありがとうございます。」
小走りで目的地に向かう。
カノジョが出て行って、すぐに担当のスタッフが。
「あれ?いない。森本くん知ってる?」
「トイレ行きましたよ。」
「そうなんだー。じゃあ、帰ってきたら連れてきてね。」
「えー。何で俺が…」
「暇でしょ?」
「それ、失礼ですよね。」
「お願いね~。」
忙しそうにバタバタとフロアの奥に消えた。