第3章 憧憬
「私は、入野さんの出演作を観て声優を目指しました。」
「入野さんと共演する事を夢見て、今まで頑張って来たんです。」
「この作品で夢が叶った。」
「それだけで十分なのに…」
「貴方に週に一度会えるのが嬉しくて。」
「スタジオに行くのが楽しみで。」
「それだけで十分だったんです。」
「私の事を見て欲しいなんて思ってはいませんでした。」
「でも」
「入野さんが別の人を愛おしそうに見つめる姿を見るのは苦しくて。」
「諦めよう…入野さんは憧れの先輩だと言い聞かせて今日まで頑張ってきたのに…」
「私に優しい言葉なんて掛けないでください。」
「私は『ただの共演者』なんですから…っ。」
これ以上言葉が出てこない。
『ただの共演者』
どれだけ引きずってるの?
『キミのことはそう言う風には見られない。』
こうなるって分かってたのに何で言っちゃったんだろう。
情けなくて泣けてくる。
私は一体何がしたいんだろう。
胸が苦しい。
締め付けられて、息が出来ない。
私は、逃げるように入野さんに背を向けて走り出した。