第3章 憧憬
顔を上げるものの視界は、滲んで見えない。
「本当に大丈夫です。」
「お疲れさまでしたっ…」
踵を返し、廊下を進もうと一歩踏み出す。
「ちょっと。」
肩を掴まれ、引き戻される。
「泣いてるし…」
「さすがに泣いてるコを放っておけるほど、大人じゃ無いんでね。」
「離してくださいっ」
「それは無理な相談だなー。」
「お節介かもしれないけど、同じ作品を作ってる共演者なんだから。」
「聞くことしか出来ないかもしれないけど、悩みがあるなら聞くよ?」
「………本当に…」
「入野さんは、お節介です。」
「優しくされると困ります…」
「え?」
「憧れで止めるように我慢してたのに」
「好きになっちゃうじゃないですか。」
「え??」
見開かれる瞳。
あぁ。やっぱりこの人は、私の事なんて眼中に無いんだ。
改めて実感すれば、再び涙が溢れる。
「えっと…」
「ごめん。」
「気持ちは嬉しいけど、俺は好意を寄せられるような出来た人間じゃないよ。」
「それに…申し訳ないけど、キミのことはそう言う風には見られない。」
「俺には…」
「分かってますよ。それくらい。」
「入野さんが誰を見てるかなんて、前から知ってますから。」
瞬きをすると、溜まった涙が頬を伝った。