第3章 憧憬
あれから何度か収録を終えたものの、私の中の影は濃度を上げ続ける。
同じ空間にいるのもツライ。
早く終われば良いのに…。
「水澤さん。」
「あっ。はい!」
「最近調子悪そうだけど大丈夫?」
スタッフさんから声が掛かる。
「何度も撮り直しになってしまい、すみません。」
「うーん。今までこんなこと無かったよね?」
「あんまり続くようだと、困るよ。」
「…はい……。申し訳ありません。」
悔しくて涙が溢れる。
でも…人前では泣かない。
唇を噛み締めて、深々と頭を下げる。
「次回は、皆さまにご迷惑をお掛けしないよう頑張ります。」
「まぁ…次に期待してるよ。」
そう言って、視界から足が消える。
遠ざかる足音。
下げた頭を上げられない。
情けなくて泣けてくる。
何やってるんだか……。
「水澤ちゃん?」
苗字に『ちゃん』を付ける呼び方…。
「どうしたの?大丈夫?」
いつもは聞きたい声だけど、今日は違う。
今だけは…一番聞きたくない声。
お願いです。
放っておいて下さい。