第18章 喫驚
岡本さんは、私の横で立ち止まる。
横から聞こえる声に耳に全神経が集中する。
「前に…ヒドいこと言って悪かった…。」
思いがけない言葉に耳を疑う。
「え?」
見上げると店の入り口を見つめたまま岡本さんは話し続ける。
「いや…その…イライラしてたって言うか…」
「一気に目の前で起きた出来事について行けなかったって言うか…」
「別に君に怒ってた訳じゃないんだ。」
「あの時は…気持ち的に穏やかじゃなくて。」
「女の子にイライラをぶつけるなんて最低だよね。」
「この作品は終わったけど、また何処かの現場で一緒になった時は…『話し掛けるな』とか言わないから。」
「その時は…よろしく。」
「じゃあ。僕は先に入るよ。」
「帰るにしても誰かに顔見せといたほうがいいと思うよ。」
顔を背ける岡本さんの表情は窺えなかった。
一方的な話し方だったけど、それでも嬉しかった。
少なくとも嫌われてはいない。
それだけで十分。
私って本当に単純なんだから……。