第2章 理解できない理解者
街灯の少ない、冷え込んだ空気の漂う夜道を並んで歩く俺らは、話す話題もなく、ただ静かな路地に足音だけが聞こえる。
五十嵐サンはさっき何か言いかけてたけど、結局何が言いたかったんだ?
しかし、女子と話し慣れない俺はなんとなく歩き始めてからそれを聞くタイミングを逃していた。
「影山くんはさ、バレー、楽しい?」
沈黙を破ったのは、五十嵐サン。
何気ない世間話の切り口のようで、ぽつりと呟くようなそれは妙な重みがあった。
「ああ。」
「辛いと思わないの?」
「練習はキツい時もあるけど、じゃないと強くなれねーだろ。」
「そっか…そうかぁ……」
そう言って五十嵐サンは、空を仰ぎながら深く息を吐いた。
「…何が言いたいかわかんねーけど。」
「あ、ごめ。」
「いや、そうじゃなくて、悪ィ、キツい言い方だった。」
また気を遣わせちまうと思い、すぐ正せば五十嵐サンは困ったような表情で俺を見つめていた。
「つまり、五十嵐サンは楽しくねーの?絵。」
聞けば、目を逸らされる。
「楽し、くなくなったのかも。」
「なんで。あんなすげー絵描けんのにな。」
「わたしにとってはすげー絵じゃなくなったからかな。
わたしにとっても、評価する人たちにとっても。」
「へぇ…」
五十嵐サンの言ってる意味はよく分からないが、なんか凹んでるのだけは分かった。