第3章 未来は拓けてる
「また、明日」
なんて言った次の日、影山くんと特に何か話した訳でもなく。
というか、偶然一回もすれ違うタイミングがなかっただけなんだけど。
けれどわたしが態々体育館に赴いたり、教室に行ったりとか、そういう事もなかった。
わたしたちの関係に変化はなかった。
その日以降も、彼の姿を見ても、
おはよう、とか
元気、とか
調子はどう、とか。
廊下ですれ違っても会釈すらせず、お互いがお互いの人間関係の中でそれぞれ過ごし、ただ淡々と何の変化もなく。
けれど、わたしは変われた。
放課後になればすぐ美術室へ向かう。
元々部の活動も人数自体も少なかったが、近日コンクールもない為美術室は連日わたし以外だれも訪れない。
わたしはしんとした教室で一人、毎日のようにキャンバスに向かい合う。
まだ昔みたいに、自由で楽しく絵を描けるような気分にはなれていないのかもしれない。
現に筆を動かす手はそう軽くない。
そうやって葛藤しながら時間を過ごして、チャイムの音で窓の外が暗くなっているのに気づき、帰り支度をする。
今日も思うように行かなかった、なんて思いながらとぼとぼ歩いていても、
帰り際に通りかかる、体育館から聞こえるボールを弾く音を聞くだけで、明日も頑張ろうと思える事ができた。