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ふたりごと【あんスタ】

第14章 陽だまりと靄




いま思い返すと、友梨香から我儘を聞いたことは、なかったかもしれない。

我儘放題、勝手放題の凛月が近くにいたから、今まで気づかなかった。


出会った当初は暗くて口数の少なかった友梨香は、日を追うごとに明るくなっていって。

いつも笑顔で、無邪気に甘えてきて。

でも、俺が疲れているときや困っているときは、すぐに気づいて、「どうしたの?」「大丈夫?」と声をかけてくれる。


優しくて、可愛くて。
一緒にいると落ち着ける女の子。


「わたし、まーくんの彼女になりたい」


告白してくれて、漸く自分の気持ちにはっきり名前がついた。


俺も、友梨香のことが『女の子として』好きなんだと。



時は過ぎて8月。夏休み。

古びた駅。知らない景色。

今時珍しい気動車に乗った末辿り着いた場所は、緑に覆われて、蝉がけたたましく鳴く、何もない小さな駅。

改札を抜けると、椅子が数個しかない待合室があり、そこにぽつんと一人で座っていた帽子を被った女の子が、俺を見るなりすぐさま立ち上がって、こちらに大きく手を振る。


「まーくん、おつかれ!」

友梨香だ。
俺を見ただけで、目一杯に嬉しそうな表情をする彼女に、自然と顔が綻ぶ。


「ごめんな…こんな遠いところ指定して」
「ううん!仕方ないよ。近場だとやっぱり危ないもんね」

少し寂れた観光地。
俺ら高校生が行くには少々渋いチョイスだが、DDDで優勝を果たし、tricksterの知名度が上がりつつある今、近場だったり、人の多い場所へ行くのはややリスクがある。


「それでも、会える機会も少ない上に本当に申し訳ないよ」
「それは付き合うときに、ちゃんと聞いたことだから。まーくんだって夏休みも忙しいんでしょ?その中時間を割いてくれてるのに申し訳ないことなんてないよ」

友梨香はそう言った後、少しはにかみながら続けた。

「それに、わたしにとっては、まーくんと付き合えたことが、本当に夢みたいに嬉しいことだから。あっ、勿論たくさん会えるに越したことはないけどね?それでも今日みたいにデートできるのが、すっごく幸せなんだよ」

友梨香は屈託のない笑顔を俺に向ける。

本心で言ってくれているんだと思う。痛いほど分かる。


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