第8章 それは歪な
「俺が友梨香に電話かけるときなんて、理由はひとつだけなのに。」
「うん。」
分かってる。
だからわたしはメールを見て、慌ててこんなとこまでわざわざ来たんだから。
「俺、これに関しては友梨香しかいないんだよ。」
「うん。」
「友梨香じゃなきゃ、ダメなの。」
そういって顔を此方に向けたりーくんは、悲しそうな表情の中、赤い目が野生の生き物のようにギラギラと輝いている。
うん、と答える前にりーくんの手が伸びて、わたしの首筋に手を当てると一気に距離を詰める。
髪が頬に触れてくすぐったいなどと考える間も無く、首筋に鋭い痛みが走る。
すぐ耳元で聞こえる粘着質な音と、鈍い痛み。
りーくんがわたしを呼んだ理由、求める理由は、わたしの血を吸うこと。
吸血鬼のりーくんは定期的に血を求める。
でもりーくんはわたし以外の血は飲まないから、わたしだけがその欲求に応えることができる。
普段はまーくんを巡って歪みあっているわたし達だけれど、数少ない大切な友達だ。
友達の為に、わたしだけにできる役目ならそれに応えたい。そう思っていた。