第8章 それは歪な
それにしてもこんな時間までりーくんはまだ学校にいるのかな。
メールを受信した時間はまだ日が暮れる前。
とりあえず電話してみるが、一向に出る気配がない。
もう、と盛大にため息を吐く。
夢ノ咲の、特にアイドル科は警備が厳しいけれど、放課後となって人が閑散になるとそれも少し薄れるらしい。
わたしは裏から入れそうな場所を見つけて、なんとか校内に足を踏み入れる。
りーくんと話した時に言っていた睡眠スポットを思い出しながら、こそこそとそこらをまわる。
そもそも隠れる必要のないくらい人が見当たらない。
けれど、ちらほらと明かりが点いてる教室があるのを見るにまだ残っている生徒はいる様子。
こんな時間までまだレッスンをしているんだろうなあ、とぼんやり考えながら次なる目的地のガーデンテラスに向かうと、漸くそこにはりーくんの姿。
寝そべっているのでまだ寝ているかと思ってゆっくり近づくと、夜闇の中赤い目が光っていた。
「遅い友梨香。」
「ごめ…て、わざわざ学校に忍び込んでまで来てあげたのに第一声それなの?」
「いいじゃん、どうせすぐ近くまで来てたんでしょ。」
「あれ?知ってたのりーくん。」
りーくんがふい、と顔を背ける。
まーくんから聞いてたわけではなさそう。そもそも聞いてたら付いてきてたか。
「友梨香は俺より勿論ま〜くんの方が好きだもんね。ま〜くんと一緒の時なら邪魔者の俺からの電話なんて無視して当然だよねぇ。」
「電話は気づかなかっただけ。機嫌直してよりーくん。」
そういって頭を撫でようとすると、その手を払われる。
そこで、りーくんが悲しそうな目をしていたというだけで怒れないわたしは、まーくんの事言えないくらい甘いんだと思う。