第2章 それぞれの思い
「……静かだなぁ。」
仕立て終えた着物と縫い針を手にして私はそっと呟いた。
ここに来てはや数ヶ月。いろんなことがあったけれども気がつけば慣れていた。もちろん、少し不便だな、と感じることはたまにあったけれどもそれ以上にここでの暮らしがとても楽しかった。
「なんだか寂しいな。」
色とりどりの刺繍糸とたくさんの美しい反物に囲まれ、それでも自分しかいない静かな部屋を見回すと私はさっきよりも少しだけ大きな声で呟いた。
このところ信長様たちはとても忙しそうだった。この時期になると安土には毎年のように征服地の大名が献上品を持って挨拶をしに来る。破竹の勢いで対抗する敵を次々と倒し、日本を統一するのにもっとも近い人と言われている信長様。その威厳と安土の豊かさを見せつけ、大名たちに対する牽制(けんせい)もかねて彼らを丁重にもてなし、自国へ返す。口で言うと簡単そうに聞こえるかもしれないけれど一月ほど前から秀吉さんたちはその準備に追われ、部下に指示を飛ばしながらも、忙しそうにしていた。そんな彼らの邪魔を私はしたくなかった。
落ち着いたらまた会いに行こう、そう思いここしばらくは自分のために用意された部屋と風呂、城下町を行き来する生活を送っていた。
(政宗たちがいないと一日ってこんなに長くて静かなんだね。)
突然自分達の前に表れ、何者かも分からない自分に彼らは普通に話しかけてくれた。時にはからかわれたり、意地悪されることもあったけれどもびっくりするくらい普通に接してくれてたことに、ここ数日の間にやっと気づいた。そして、彼らのいない時間がとても長く、寂しく感じるのだということにも。
風呂で身体を清め、夜着に着替えた私はゆっくりと布団に潜り込み、眼を閉じた。皆の姿
が頭のなかに思い浮かんでは消えていく。
(やっぱり寂しいな。皆、無理していないかな。)
(はやく皆に会いたい、いっぱい話したいな)
そんなことを考えていくうちに少しずつ眠気に襲われ、私は静かに眠りについた。