第2章 それぞれの思い
伊達政宗は虚しさを覚えていた。
(優希が来ないせいで作っておいた饅頭が固くなっちまったな。)
美しい装飾が施された重箱の中身を見て、そっとため息をつくと政宗は台所へと向かう。
好みの殿方の話や城内で見聞きしたものについての話に花を咲かせていた女中たち。突然の政宗の来訪に気づき、頬を染めながらもいつものように彼女たちはさっと左右にわかれ、使い勝手が一番いい場所を譲った。
小さく礼を言い、戸棚から片栗粉の入った壺を探しあてると重箱に入っていた饅頭にそれを軽くまぶしていく。そしてあらかじめ熱しておいた油の中に1つ、また1つと入れてさっと揚げていく。
女中に用意させた器に出来上がったあげ饅頭をぽんぽんと載せていく政宗。そのうちの1つをおもむろに箸でつかみ口に入れて味を確かめる。そしてそれぞれ作業をしながらもちらちらとこちらを見つめる女中たちをさっと眺めると手が空いたら食べるように、と勧めて側の台におく。
お互いに目を見合せ、そして嬉しそうに微笑む彼女達が一人、また一人と手を休めて台の方へ駆け寄る。口々に礼を言いながら口に含み、笑みがこぼれる。そしてその美味しさについて賑やかに仲間と話ながら食べていく様子を政宗はぼんやりと眺めていた。
(優希もいつもあんな風に笑いながら食べていたな。)
さらに賑やかに話す女中たちの顔に優希の笑顔を重ねながら政宗はふ、と小さく笑う。
(うまいもんたくさん食わせるから早くあいつの笑う顔がみてえな。)