第4章 処遇
そこで事件は起きた。
さらり、と優希の髪が揺れたと同時に小さな生き物がぴょん、と刀の切っ先に飛び乗ってきた。予想外の登場の仕方と、手に感じる予想以上に重さに一瞬顔をしかめる三成。だがその三成の目線が切っ先にいるそれに向かった時、彼の顔が凍りついた。
「……え?」
力が緩んでいく手と、スッと手の中で動く刀の柄。キラリと光る刃は僅かに内側へ、優希の方へと傾く。慌てた三成は手に再び力を込めると自らの方へと引き寄せるようにスッと柄を引っ込める。
だがそれがいけなかった。
あ、と小さな声を漏らすと優希は首もとを押さえて床にしゃがみこんだ。胸元に抱えられていた小箱はガシャンと大きな音を立てて床に落ちる。細い指の隙間からつう、と赤い筋が見える。家康と光秀が見たこともないような顔で三成を押しのけ、しゃがみこむ優希のもとへと駆け寄った。
呆然と立ち尽くす三成の手元から、鈍い音を立てて刀が床に落ちる。落ちた衝撃で刀から勢いよく逃げ出したそれを信長がつかみとる。じたばたと腕を振り回して暴れるそれを顔の高さまで持ち上げると信長はその顔を覗きこむ。
「こやつは……。」
低く、小さな呟きを聞き取った秀吉と政宗は信長の後ろにさっと移動する。失礼します、と短く断ると主君と同じようにそれの顔を覗きこむ。途端に秀吉は顔をこれ以上ないくらい青くし、政宗はその大きな左目をさらに大きく見開いた。
明るい青竹色の着物を身に付けた生き物。栗色の髪が動く度にふわふわと揺れている。
彼らの目にはじたばたと暴れる、秀吉そっくりの小さな生き物が写っていた。
そして床の上に落ちた小箱の蓋の隙間から、小さな武将達が遥か上をじっと見つめていた。