第4章 処遇
綺麗に整えられていたはずの優希の髪はいつの間にかびっくりするほど乱れて、ところどころほつれていた。そして束となって首もとを流れているほつれた髪の裏で、今まさに現行犯が耳元の髪を引っぱっているのだ。
「いつのまに…!」
秀吉の突然の不幸に気をとられていたためか、肩の上にいる小さなそれに全く気づいてなかった優希。もぞもぞと耳元に移動してくる小さなそれの気配と、意識すれば感じられる確かな重みに思わずくすぐったさを覚えてぷるっ、と体を震わせる。
「優希様。申し訳ありませんが少しの間、動かないで頂けますか?」
いつもの優しい声とエンジェルスマイルはどこへやら、真剣な目で自分を見つめる三成をそっと見上げると優希はこくり、とうなずくことしかできなかった。
「秀吉さまに対する無礼、優希様の大切な髪を乱すその粗暴な行い。見過ごすわけにはいきません。」
普段、あどけなささえ感じさせる柔和な笑顔を見せるその顔にはもはやその面影は残っていない。静かな怒りを感じさせる表情は危うい色気を醸し出し、殺気さえ感じられる。
顔立ちが整っているからだろうか。その顔は凄みを増しており、阿修羅を思わせる。背筋に冷たい汗が一筋伝うのを優希は感じた。
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ほつれた綺麗な髪が、優希の顔の輪郭を縁取るかのように緩やかに肩や首もとに流れている。その首もとではまだ髪の裏に隠れた小さな何かがもぞもぞと動いているのを三成はじっと見ていた。後ろに隠れているため、その顔はよく見えない。目を細め、成敗すべき対象に狙いを定めるべく、三成は刀を握る手に力を込める。
僅かに身動ぎ(みじろぎ)、んっと声を漏らす優希の姿を三成は刹那、とらえた。しばらく会わなかったせいだろうか、ふとしたときに脳裏に思い浮かべていた優希のそれよりもずっと可憐に見えた。
じんわり、と胸元が温かくなるのを感じた。突然のことに戸惑った三成の注意は一瞬、ほんの一瞬だがそれて手元が僅かに狂ってしまった。