第4章 めぐりあい
静かになった森のなかで閉じていた瞼をゆっくりと開けると彼は目の前でしゃがみこむ男の姿を見つめる。自分を思いっきり罵り、狂ったように笑い、そしてさめざめと泣いていたその男。今は何かを覚悟したかのように姿勢を正し、静かに目を瞑っていた。
その姿に『彼ら』が重なり、消えていく。眉が凛々しかった青年の、真剣な顔つき。にきびが目立つ、まだ幼さ残る顔つき。皺が深く刻まれた、厳しくも頼もしく思っていた男の顔つき。
錫杖のさきを静かに男の顔から遠ざけ、自分のもとへと引き寄せる。微かに見えた黒ずんだ染みと鼻に届いたその匂い。何度磨いても残るそれはまるで刻印のようだった。あのときの記憶を、光景を、忘れないためにつけられた刻印。
そこから目をそらし、男は口を開く。
「一度しか言わない。」
自らの声に反応して、薄く目を開けた頭の男の顔をじっと見下ろして。
「ここを立ち去れ、死にたくなければな。」