第4章 めぐりあい
言ってみやがれ、そう最後に吐き捨てて頭は男を再び睨んだ。飢えて、寝床で弱っていく妻と娘の、痩けた(こけた)顔と、寺で経をあげた僧の肌つやの良いそれとが頭のなかに浮かび、重なっていく。そして葬式の帰りがけにちらと見かけた女の、キンキンとした笑い声と鼻につくような香料の香りを思い出す。吐き気にも似た不快感が胃のあたりでむくむくと沸いてくる。
同時に奇妙な高揚感を頭(かしら)は感じていた。色んな寺で僧が戒律に背いて肉を食らい、酒を煽り、女を連れ込み、兵まで揃えていることは誰もが知っていることだ。現に地元の寺もそうだった。目の前に立つ男も僧ならば、自分の言ったことに反論はできまい。いや、出来るわけがないのだ。
歪んだ優越感が頭の男の身体をじわじわと侵し、満たしていく。自分よりも遥かに体格もよく、傷さえなければ、顔立ちもいいはずのこの男。錫杖を軽々と持ち上げるほどの剛力の彼が僧でなくただの男として身近にいたら、きっと女が持て囃すであろう。
そんな男を、俺は口で言い負かした、さんざんにけなしてやったのだ。先程まで恐れていた自分におかしさがこみ上げ、頭は肩を震わせながら声に出して笑った。