第4章 めぐりあい
なによりも
気配もなく自分達の背後に佇んでいた彼を思い出して彼はぶるり、と身震いをした。
山の斜面は決して緩やかでもなければ、見張らしも良くない。細やかな枝葉があちこちに落ちている山のなかを、ただの坊主が明かりも持たず、足音もたてずに登れるわけがないのだ。確かに女に意識を奪われた瞬間はあったが決して長くはないし、その前は辺りを気にしながら山のなかを進んでいた。もし人がいたなら気づいてた、絶対に。
じゃあこいつぁ、なにものだ。
目の前にいるのに、どことなく浮世離れした雰囲気を漂わせる男を、薄気味悪いと頭は感じた。自分達に気づかれることなく、背後に立っていた彼を、危険だと感じた。
少しずつ、少しずつ右手を自らの背中の方へと回す。固く、節くれだった指のなかで、鋭利な刃の冷たさを感じる。先の戦で死んだ偉そうな将が携えていたそれの切れ味は嫌というほど知っている。
こいつは、殺らなけりゃ、いけない。
背中にじわりと滲み出た汗が、ゆっくりと背中を伝うのを感じた。