第3章 めざめ
ぽつり、と鼻の辺りに水滴が落ちて口元に伝うのを感じた。
「……え?」
突然のことにびっくりした私は空を見上げた。月が澄んで見えたはずのそこは、いつの間にか厚い雲で覆われていた。
そして髪に、額に、頬に、とぱらぱらと落ちてきた水滴は量を増して辺り一面に勢いよく降りかかる。ごろごろと、低く獣が唸るような音が遠くの方から聞こえてくる。
「そんな……いつの間に……。」
今日は一日、綺麗に晴れるでしょう、とニッコリ笑いながらパネルの前で手を振る女子アナの声をふと思い出す。手元に傘なんてあるわけない。
土砂降りの中、そんなことを考えながら正面を向いた私はあっ、と思わず声を出して驚いてしまった。
一、二メートルほど離れて向き合っていたはずの女性が今、目の前に立っていた。少し近づけば、その息づかいすら聞こえてきそうなくらいの近さだった。ざあざあと音を立てて降りかかる雨に打たれながらも真っ直ぐに見つめてくるその姿が、同じ女性なのになんだか凛としていて、色気すら感じられる気がするのはなぜなんだろう。
さっきまでまるで見惚れてしまったかのようにみていた女性の目を私はもう一回見つめ直す。微かに震える黒いまつげに雨露がまるで水晶のようにきらりと輝きながらのっていた。そんなまつげに縁取られた目には静かな、そして強い覚悟と信念がまだ見えた。
「……優希」
ゆっくりと、淡い桃色の唇から紡がれたのは私の名前だった。私と同じ顔で、同じ声で、同じ調子で口にされたその言葉に何故かどきりとする。
そして