第3章 めざめ
ぴくり、と女性の頬が動くのが見えた。口元が微かに震えたかと思うと、淡い桃色の唇が薄く開かれる。伏し目がちだった目が、真っ直ぐに優希をとらえた。きらり、とその目が光ったように見えたのは月の光のせいだけではなかった。
もしかしたら、と優希は何故か冷静になった頭の中で考える。私はとんでもないことを聞いてしまったかもしれない。そう考えるときゅっ、と胸元が締め付けられるように苦しくなるのを感じた。
目の前にいる女性が何者なのか優希は知らない。これは実はとても不気味でおかしいことだ。夜の人気のない神社でこうして向かい合っていること自体、本当は危ないことなのだということも今更ながら理解した。
でも今この時、優希は何故か目の前に佇む女性に対して少しもそうは思えなかった。
その女性の顔立ちが自分にそっくりだからだろうか。ぽろり、とその目から涙を流しながら自分を見つめるからだろうか。
そう考えながら優希は目をつむると、頭の中でその考えをすぐに打ち消していく。それだけじゃない、と。