第3章 めざめ
変化が見えたのはその時だった。
優希をずっと微笑みながら見つめていた彼女の顔に、微かにだが翳り(かげり)が見えた。口の端が僅かに下がり、少し伏し目がちになった目は黒く細いまつげの下で悲しげに揺れている。重ねられていた両手は左右に分かれ、暗い色の袴をきゅっと握りしめて、震えていた。
自分の問いで彼女に起こった変化に優希は戸惑い、大きく目を見開いた。
(どうしてそんな顔をするの?どうしてそんなに)
辛そうなの、と口に出してしまいそうになったことに気づいた優希は思わず口元を両手で覆う。
自分の頭の中にむくりと浮かんだそんな問いは、目の前に佇む女性に聞こえるわけがない、はずだった。