第3章 めざめ
黒く、長い髪を一つにまとめた女性がそこに佇んでいた。髪とともに風に揺れる白い結び紐には小さな赤い花が刺繍がされている。こちらを見つめ、微笑むその顔は確かに女性のそれであり、そしてその顔は鏡に写し取ったかのように優希にそっくりだった。
だがもし本当にそれが女性であるなら、彼女が身につけている服はいささか不自然だ。それは時代劇などでしか見ない「男性の」着物であったからだ。
肩先から胸元、お腹を覆う布地は暗い色に染められており、逆さにした三角形のような形をしている。肩の辺りに見慣れない模様が刺繍されており、風の動きにあわせて布地が揺れるのにあわせて僅かに形を歪ませてる。
その肩先から見える白く長い袖は肘の少し先の辺りまであり、その中から細い腕がすらりと伸びている。軽く重ねられた両手がおかれた太ももは腰の辺りから身に付けられた袴で隠れている。膝の辺りでその袴の裾はきゅっととじられ、白い布が足首までおおっている。足下がスッキリとしているぶん、何だか動きやすそうだな、と妙なことを優希は考えていた。