第3章 めざめ
(本当に、あの子は何がしたいんだろう…)
手で抱えているスーツケースの重さで手がしびれ始め、時々踏み外しそうになる足元にヒヤヒヤしながらも優希はゆっくりとのぼっていく。高くのびた木々の隙間から月が見える。うっすらと汗ばみ、頬を赤く染めながら小さく息をきらせている優希の顔を月は静かに照らしている。
上を見上げていたはずの顔が荷物の重さと息苦しさでうつむきがちになり、靴で擦れてできた小さな傷をあちこちにつけている足にはだんだんと力が入らなくなっていた。
(どうしよう……また目の前が白く霞んでくる。さっきも走ったりしたし、疲れが出てきたのかも……)
そんな風に考えてながら昇っていたためか、階段がもうすぐ終わりを迎えることに優希は気づいてなかった。
もう一段、と上げていた右足が踏みしめるべき段差を失い、すとんともとあった場所に収まる感覚に一瞬驚き、その意味を理解した優希は少しだけ顔を上げた。鈍く光る台石と朱色に塗られた柱が真っ先に見える。ゆっくりと上を見上げれば大きな鳥居が月の光を背に厳かに佇んでいた。
(…………ここって……神社?)
一筋の雲が月を覆い、その姿をゆっくりと隠していく。それにあわせて鳥居は黒く塗り潰され、巨大な影絵のように優希の前にそびえ立つ。辺りから光が消え、夜の闇が濃くなる。
暗くて何も見えなくなっちゃう。
そう思い、正面を見た優希はあ、っと小さく声を出す。そして目の前に広がるそれをとらえると優希の目はゆっくりと大きく広がる。