第3章 めざめ
「……………………ここ、どこ」
そう呟いた優希に答える人はもちろん、いない。
どれくらい走っただろうか。自分にそっくりな子を追って走ってきた優希がたどり着いた先。
そこは奥の方へと続く石畳の小さな階段と、その階段に暗い影を落とす鬱蒼とした木立だった。月明かりに照らされた階段はほんのりと白く輝いているようにも見える。そんな階段に木立の影がまるでその白さを隠そうとするかのように様々な大きさで伸び、鼠色や淡い黒に染めていた。奥の方になるほど影は大きくなり、その濃さを増している。
先に続いてるはずの階段を影は覆い隠し、奥の見えない空間を作り出している。そしてそれは微かに不気味な雰囲気を漂わせながら佇んでいた。木立にふく風がひゅうひゅうとかすれた悲鳴のように小さく鳴き、鬱蒼と生えた木々を揺らし、枝をしならせ、葉を生き物のようにざわざわと動かしていく。
(正直、行きたくないな…でも、この先にきっといるんだろうな。)
他に道らしきものや民家、人が出入りしそうな空間はない。あるとするなら先ほど自分が通ってきた狭い道だがその子が引き返して来たなら会わないはずがない。
辺りを見回してそっとため息をつくと優希は先程まで引きずっていたスーツケースの取手に両手を添え 、持ち上げた。右肩からずり落ちそうになるショルダーバッグを脇でなんとかぐっと挟むと決して広くはない石畳の階段に一段、また一段と足をかけていく。