第3章 めざめ
さっきまで思い浮かべていた綺麗な景色や気持ちいいお風呂、美味しいご飯は瞬時に消えた。目の前を通ったそれは優希を引き付けるのに充分過ぎる存在だった。
(今の子…私に凄く似てた。でも服装が何だか変だった。普通の服装じゃないし少し汚れてた。男の子っぽいというか…まるで)
そこまで考えてはっとすると優希はそれが向かった先の方へと目を凝らす。街灯も少なく、月明かりと店先から漏れる灯りしかないのにそれははっきりと見えた。曲がり角の手前で自分を見つめるそれは、己を見つめる優希の視線に気づいてにっこり笑う。そして角の奥に消えていった。
(笑った顔まで私にそっくり………ってそうじゃなくて!)
変なことを気づき、妙に感心していた自分にツッコミをいれるとスーツケースをゴロゴロと引きずりながらそれの後を追った。曲がり角まで行けば、奥の方でそれは私を見つめ、また私に笑いかけてさらに奥にある角に消えていった。