第11章 斎児ーいわいこー
靄が私と節さんの上に屈み込んでいたと見える。幽敵の体を突き抜けるというのはあまり、いや、まるきり気分のいいことではない。
しかし突き抜けられた方も気分が良くないものなのか、もしくは思わぬことに驚いたのか、靄は私の声に驚いたように揺らいで消えた。
臆病な、と思ったが私も人のことは言えない。それに今はそれどころではない。抱き起した節さんの目が開く様子がないのを見た私は、ぐんなりした体をようよう抱き上げてよろよろと寺に向かって歩き出した。
歩きながら、一度だけ無縫塔を振り返ると、最早形を留めていない靄が、ふわふわと朝霧のように漂うのが見えた。
頼りなく、弱弱しい。
「…秋光さん…?」
小さく呼びかけたらば、靄は無縫塔に吸い込まれ、消えてなくなった。