第6章 運動会
一松side
終了の笛が鳴った時、全員が気が抜けていたんだ。
俺は突然崩れたバランスに対応することができなかった。
練習の時の様に身長差からか高田さんの腕がぐっと高くなったことで俺の体は浮き上がり、反応が遅れて投げ出されてしまった。
まずいと思った時、誰かに抱き留められた。
顔を上げると俺は高田さんを下敷きにしていた。
慌ててのけると高田さんが声を上げる。
「大丈夫かい!?ごめんね、俺の所為だ!」
「あ、いいよ・・・むしろ助けられたし」
酒屋のおじさんと居酒屋のおじさんも駆け寄ってきた。
「一松君、大丈夫か!?・・・肘から血が出てるぞ!」
「このくらい・・・」
見ると肘を少し擦りむいたようだった。
高田さんが救護テントに行こうと手を差し伸べてくれる。
俺はその手を取ったがすぐに手をひっこめることになった。
「痛っ!!」
どうやら指を突いたようだ。
その瞬間俺の体がふわりと宙に浮いた。
驚いて横を見ると高田さんの顔があった。
「足を怪我しててもいけないし僕が連れてくよ!」
俺は高田さんにお姫様抱っこされていた。
トド松の気持ちがよく分かった瞬間だった。
大の大人、しかも男なのにお姫様抱っこって・・・
俺は抵抗したけど抵抗も虚しく公衆の面前でお姫様抱っこで退場することになった。
救護テントで手当てを受けていると聞きなれた声に呼ばれて振り返る。
「カラ松っ!」
カラ松は一瞬高田さんを見遣ったがすぐに俺に視線を戻した。
「大丈夫だったか!?怪我したのか!?」
「そんなに心配するほどじゃないよ」
すると高田さんが一歩カラ松に歩み寄った。
カラ松もそれに気づいて顔を上げる。
「俺の不注意で大事な弟にけがをさせてしまって・・・ごめん」
「いえ、助けてくれてありがとうございます」
笑顔はないものの普通に接しようと努力しているのが見えて嬉しく思った。
同時に言い争いにならなくてよかったとほっとする。
遠くの方でおそ松兄さんが様子を見ているのに気が付いた。
俺はおそ松兄さんに大丈夫という意味で頷いてみせた。
おそ松兄さんは手を振って戻って行った。
手当てを終えた俺達もそれぞれの休憩場所に戻った。