第6章 運動会
それから数日後のことだ。
俺はカラ松と一緒に路地裏に行った後、キャットフードと煮干しを買い、家に着いたところだった。
「一松君?・・・あ、やっぱりそうだ」
おーいと俺に向かって男の人が手を振りながら駆け寄ってきた。
目の前に来ても一瞬誰かわからない。
「あれ?俺のこと覚えてない!?」
「あ・・・」
そこで俺はやっと思い出す。
「高田さん・・・だっけ?」
「そうそう!忘れられてたなんて悲しいなぁ~」
「すみません」
俺を見ている高田さんの視線が横に動く。
「しかし、本当によく似ているね?君は?」
「えっと、こいつは次男のカラ松」
カラ松の方を見るとカラ松は何故かいつもより目力が強めな気がする。
「カラ松?」
「ん?なんだ?」
俺の声に振り向いたカラ松はいつもの優しい顔だ。
それを見て考え過ぎかと思い、そのまま紹介を続ける。
「カラ松、この人は運動会の騎馬戦で一緒になった高田さん」
「やぁ、運動会では同じ白組だよね、よろしく」
「あぁ、はい」
いつもは誰にでも人当たり良いのに愛想のない返事に少しイラっとして肘で強めに突いてやった。
何も言わずに顔を背けるカラ松。
何だこいつと思っていると高田さんが「んっ!?」と声を上げる。
どうしたんだろうと振り向くと家の表札を指さしていた。
「松野・・・ってことはここが一松君の家?」
「そうだけど」
「そうなんだ!?あそこのアパートのあの洗濯物干してるとこ、あそこ俺の部屋!毎日眺めてる景色の中に一松君の家があったんだね~」
そんな他愛もない話をして俺達は別れた。
家に入り、俺は無言で二階に向かうカラ松の腕を掴んだ。
「お前、何だよあの態度っ失礼だろ!」
「お前とそう変わらなかったと思うが?」
カッとなったが今まで向けられたこともない鋭い目で睨みつけられ思わず怯んだ俺は掴んだ腕を離した。
カラ松はそのまま二階へ上がって行った。
何なんだよ、あいつ何をそんなに怒ってんの?
俺何かした?
しかも、お前とそう変わらないってなんだよ。
確かに俺は愛想良くない。
でも、それは愛想よく振舞いたいけど”できない”んだってお前が一番理解してくれてると思ってたのに。
胸の奥が、喉が、キューっと締め付けられる感覚に、堪らず俺は外に飛び出した。