第20章 6人旅(旅行編)
「チョロ松とトド松は部屋に戻って押し入れの墨を消してきてくれる?」
そう言うおそ松兄さんに大きく頷いて、僕はトド松の手を引いて駆け出した。
「チョロ松兄さん、墨なんてどうやって消すの!?木の板に描かれてあるのに無理だよ!」
「そんなの簡単な話だろ?墨を消すなら墨だよ!」
僕は、チョロ松の腕を引いたまま深夜のフロントに向かった。
フロントには誰もいないので、カウンターの上にあるベルを押す。
すると、居眠りでもしていたのか、頬に跡をつけたおじさんが眼鏡を掛けながら出てきた。
「こんな時間にすみません、墨はありませんか?」
「す、墨・・・ですか?」
こんな時間に墨が欲しいなんて言ってくる客は間違いなく僕が初なんじゃないかと思う。
聞き間違いではないことを確認した後、おじさんは顎に手を当て考え込んで「筆ペンでよろしければございますが」と答えた。
この際、墨が出るなら何でも構わないと僕はおじさんに筆ペンを二本借りて礼を言うと、再び走った。
部屋に戻り、電気をつけて押し入れを開ける。
筆ペンの一本をトド松に渡し、薄暗い押し入れの中がよく見える様、押し入れの襖は外した。
そして、今だ幽霊を恐れるトド松の背を押して、僕とトド松は押し入れの壁に筆を走らせた。