第20章 6人旅(旅行編)
しんと静まり返った旅館の廊下を、一松を先頭に歩く。
階段で一階に向かい、真っ直ぐ正面の出入り口から外に出ると、左手の庭の奥がぼんやりと光って見えた。
一松はその光に導かれる様に庭の中に入っていく。
しがみつくトド松が邪魔で歩きにくい。
それに、庭に敷き詰められた白い玉石も足が取られて歩き辛かった。
二月の冷たい風が浴衣の隙間を縫って入ってきて体を冷やしていく。
身震いしながら、目の前まで来た青白い光を放つものを見上げる。
「松の・・・木?」
そこには青白く光る松の木があった。
それを見た瞬間、何とも言えない感情が胸を襲った。
「あれ?・・・何、これ?」
そう言うチョロ松の声が聞こえて目を向けると、チョロ松の頬には涙を伝った跡があって、瞳には再び溢れ出しそうなほど涙を溜めていた。
俺にしがみついたまま、トド松も涙を流していた。
怖くて泣いているのかと思ったけど、トド松もまた、涙が流れたことは不意な事だったようで慌てている様子だった。
十四松は泣きはしていないものの、口は閉じて、じっと松の木の一点を見つめていた。
ざり、ざり・・・
玉石を踏む音がして、そちらを見ると、一松が松に向かって歩き出したところだった。
一松は松の木の幹に顔を埋めて泣きじゃくる。
ごめんね、ごめんねと妖怪のカラ松を身代わりにしてしまった事をなのか、今まで開放してあげられなかった事をなのか必死に誤っていた。
俺はトド松を引き剥すと一松と同じ様に松の木に歩み寄って、なんとなく、ヒビの入ったカサカサとした木の表面を撫でた。
「ごめんな、俺が力不足で・・・って、え?」
思ってもいなかった言葉が勝手に口をついて出たかと思ったら、心臓がドクン!と一度、痛いくらいに収縮した。
そして、見たことのない光景や変な格好した弟達との日々を思い出した。
すぐに妖怪の時の俺の記憶なんだと理解した。
そして、ふっと気が付くと弟達も松の木に触れていて、驚いたような顔をして固まっていた。
そしてしばらくするとハッと気が付いたように顔を上げて、他の兄弟の様子を窺っている。
俺は、何だか懐かしいような、胸が躍るような気持ちになった。
「よっ!久しぶりだな、お前達!今度こそ、カラ松助けっぞ!!」
その言葉に全員が大きく頷いた。