第20章 6人旅(旅行編)
暴れる一松を十四松が抑え込むこと3分。
一松は眠る様に意識を手放した。
同時に元の一松の姿になる。
だけど、血で真っ赤に染まった指先はそのままだった。
すると、トド松が自分のバックを漁って消毒液と絆創膏を持って来た。
僕は備え付けのティッシュ箱を渡した。
「ありがと、チョロ松兄さん。しみると思うけど、ごめんね、一松兄さん」
消毒液を掛けると、一松の指先がピクリと動いた。
「一松兄さん!聞こえる?」
息を切らして座り込んでいた十四松も気付いたのか身を乗り出した。
すると、一松の瞼が微かに持ち上がった。
「…松っ、カラ松さ…ん」
同時に一松の瞼の隙間から涙が溢れ出す。
「カラ松さん?」
僕達は顔を見合わせた。
カラ松の姿は未だ見つからない。
だけど、『さん』って…一松が今までにカラ松の事をそう呼んでいる所は見た事ない。
そうこうしていると一松の意識がはっきりして来た様で、言葉がはっきりし、瞼が持ち上がって行く。
僕達は固唾を飲んでそれを見守った。
「カラ松さん!」
そう叫んで起き上がった一松は部屋と僕らの顔を見渡して自分の手を見つめた。
そしてまた、大粒の涙を流し始める。
「ゆ、夢じゃないの?…ねぇ!チョロ松兄さん、カラ松はどこに行ったの?何で居ないの?」
珍しく取り乱した一松は僕の肩を揺さぶった。
その手をおそ松兄さんが掴む。
「一松、それは俺たちが聞きたいんだけど?何があったのかちゃんと説明してくんない?」
そう言うおそ松兄さんの目は真剣そのもので、一松も冷静になろうとゆっくりと深い呼吸をした。
「夢を見たんだ…僕は猫又っていう妖怪の子供で、顔も名前もおそ松兄さんと同じ狐の大妖怪に拾われた」
一松の話出した漫画みたいな話を僕達は真剣に聞いた。
だって、恋人が居なくなったっていうのにふざけた夢の話なんか出来るわけない。
それに、先ほどの一松の姿に僕の知る猫又という妖怪の特徴が、合致したからだ。
「その狐、おそ松さんは僕ともう一人、百目のチョロ松も養って居て、おそ松さんの親友の烏天狗のカラ松はろくろ首の十四松と雪女のトド松を養って居た。おそ松さんとカラ松さんは強い妖怪で、僕達弱い妖怪を守ってくれた。ある日、僕とチョロ松、十四松、トド松の4人で隠れんぼをした時、僕は迷子になって、人里に迷い込んでしまったんだ。」