第20章 6人旅(旅行編)
「チョロ松兄さん、ねぇ!チョロ松兄さん!」
僕を呼ぶ声に気がついて目を開けると、蛍光灯の明かりに目が眩んだ。
「ぅわ…まぶし」
目をこすって、なんとか開いた瞼の隙間から時間を確認すると、深夜2時だった。
「チョロ松兄さん!」
声の方に目をやると、こんもりと山になった布団の隙間から、トド松が目だけ出してこちらを見ていた。
「何?トイレ?」
そう行って立ち上がろうとした時、「違うよ!」という喰い気味な返事が返ってきて、持ち上げた腰を下ろして布団の上座り込んだ。
「じゃあ、何?」
「居ないんだ!」
「ん?」
僕は並んで眠る兄弟たちを見渡した。
僕の横に並んで寝て居たはずのカラ松と一松が居ない。
トド松を見やると布団の中で分からないと首を振っているようだ。
すぐ側の襖を開け、トイレやスリッパや靴を確認して見たけど、トイレは真っ暗だしスリッパも靴も人数分揃っている。
押入れのお札のことが頭をよぎり、鳥肌が立った。
その時だった。
「きゃーーーー!」
と言うトド松の悲鳴が聞こえて、慌てて部屋に戻ると、布団に包(くる)まったままのトド松が襖の前にいて、ガタガタと震えている。
ただ事ではないことが起きたのだと悟った僕は何が起きたのか知るべく身動きをやめて声も息も潜めた。
僕の横でそーっと布団から顔を出したトド松と視線を合わせる。
トド松は今にも溢れそうな涙の奥にある瞳だけを押入れの方に向けた。
僕もその視線を追って押入れに目をやる。
ガリガリガリガリガリガリ‼︎‼︎
僕の背筋を今までに感じたことのない悪寒か駆け上がった。
トド松は声にならない声をあげて僕の腕に力の限りでしがみつく。
僕は震える手をぐっと握りトド松をかばうように一歩前に出た。
「押入れの中にいるのは誰だ!出てこい!」
「ちょっ!チョロ松兄さん!」
トド松は、僕の腕にしがみついたまま、なんて事を言うんだという顔をしている。
僕だってこんなことしたくない。
だけど、この状況…
カラ松と一松は押入れの中の得体の知れない何かに連れていかれたとしか思えない。
ならば放っておく事も逃げ出す事も許されない。
トド松も腹をくくったのか立ち上がる。
先ほどの僕の声に目を覚ましたおそ松兄さんと十四松も起き上がって部屋を見渡し、カラ松と一松が居ないことに気がついたようだ。
